近所に何軒かある文化財級の京町家。その中の一軒、杉本家住宅で展覧会を開催するという噂。しかもその間は無料で内部を見学できるとあってお出かけ。
実際に今も住人の方が住んでおられるとあって、普段は非公開。見学可能なのは保存会の会員に限られる上に予約が必要。年に何回か一般の見学会も催されるが有料。大げさなようだが、自宅に招き入れると言うことを考えると納得できる制約でもある。ということで、今回は破格の待遇。
祇園祭の伯牙山のお飾り場にもなるおうち。以前から京都市指定有形文化財だったが、今年になって国の重要文化財に指定されている。
寛保3年(1743年)、「奈良屋」の屋号をもって烏丸四条通下ルに呉服商を創業し、京呉服を仕入れて関東地方で販売する、いわゆる他国店持京商人として繁栄しました。現在の主屋は、明和4年(1767年)に現在の地に移ったのち、元治の大火の後に再建されたもので、棟札によれば明治3年(1870年)4月23日の上棟とされています。
重要文化財であるこの建物は、京格子に出格子、大戸、犬矢来、そして厨子二階に開けた土塗りのむしこ窓など、すべてが昔ながらの京町家のたたずまいです。
一部2階建てのおうち、1階部分を拝見できる。ざっと数えただけで14部屋ある。洋間あり、座敷あり、仏間あり。庭には蔵が3棟。以前はもう1棟あったそうだ。他に米蔵、炭小屋に漬物小屋なんてのも。昔はメインのおかずが漬物で、たまに魚が付く程度だったそうで、米並みに漬物は大事らしい。
間取りは豪邸級だが、雰囲気はそうでもない。適度に枯れていてとっても落ち着いた佇まい。いわゆる鰻の寝床の京町家と違って横への広がりも大きく、普通の日本家屋的な造り。それでも、「走り」と呼ばれる吹き抜け土間の台所におくどさん(竈)があって、鰻の寝床を横に広げたようでもある。実際、どんどん周りの家を買い足して広げてきた経緯があるそうだ。
1階は天井が低く、部屋に入った瞬間は暗く感じるが、目が慣れるとそうでもない。庭から入ってくる自然な光が落ち着きを感じさせてくれる。窓は庭に面した掃き出し窓なので、開放感も高い。軒も深く、雨の日は守られているという幸福感も味わえそうだ。使われている部材も大きく長く見事なものが多い。
庭を眺めながら座敷に座っていると根が生えてきそう。
主催している京都伝統工芸協議会の方だろうか、奈良屋記念杉本家保存会の方だろうか、所々で建物の説明をしてくださる。午前中にお伺いした時は奥様(たぶん)もいらっしゃっていろいろ説明をしてくださった。
台所におくどさんもあるが、薪を焚くと煙で消防車がやってくるので、消防署に届け出ないと焚けないとか。京都は早くからガスが供給されていたのでおくどさんにもガスが焚ける口があるとか。おなごしさんやでっちどんがいることを前提に建てられたおうちなので、今のご家族だけで住まう生活だと維持管理も大変らしい。時間をやりくりし工夫を重ねて維持されているとか。修繕も制約が多く、公的助成もあるけれどスムーズにはいかないこともあるようだ。建物だけでなく、生活も昔ながらのスタイルを出来るだけ守ろうとされているそうで、それも現代では楽ではない。
文化財の助成元が市から国に昇格したのは良いけれど、相手の組織が大きくなる分、大変なこともあるようで。ギャラリーとしては文化財文化財とはしゃぐだけだが、実際に維持される方の苦労は並みではないようだ。
話の中で、「晴れた日の午後2時半~3時半頃が木漏れ日が座敷に差してきてきらきらきれいだからその頃またいらっしゃい」と言ってくださったので、再訪してしまった。西側の庭に面した「夫婦の間」に木々を通して差す陽が優しくきらきら輝く。西日できついはずなのだが、季節のせいもあるのだろうが木が和らげてくれているようだ。
残念乍ら屋内は撮影禁止。個人の住宅なのだから仕方ない。でも、ぱっとワンシーン切り取って残したい場面もあるけれど、それより全体の雰囲気は写真なんかじゃ残せそうにないな。